目が見えず、耳も聞こえない、全盲聾となった福島さんの生き様を綴ったこの本を読ませて頂きました。
現代版ヘレンケラーの様で重い内容と思いきや、元来の明るい性格で文章も語り口も面白く、
一気に読むことができました。
福島さんは3歳で右目を、9歳で左目を失明、全盲となりました。
14歳の頃から右耳が聞こえなくなり、18歳の時に残された左耳も聞こえなくなってしまったのです。
全盲聾(ぜんもうろう)…光と音からまったく閉ざされた世界。
福島さんはその時の状態を「真っ暗な真空の宇宙空間に、ただ一人で浮かんでいる感じ」と表現しています。
なぜぼくだけこんなに苦しまなければならないのか、これから先、ぼくはどうやって生きていけばよいのか…
不安、恐怖、懊悩(おうのう)の日々が続いたそんなある日。
母親の令子さんが福島さんの指を点字タイプライターのキーに見立てて「さとしわかるか」と打った。
「ああ、わかるで」と福島さんは答えた。
母親のこの指点字は壮大な転機となり、福島さんは真っ暗な宇宙空間から人間の世界に戻ってきました。
その時の感動を福島さんは詩に綴っています。
【指先の宇宙】
ぼくが光と音を失ったとき
そこにはことばがなかった
そして世界がなかった
ぼくは闇と静寂の中でただ一人
ことばをなくして座っていた
ぼくの指にきみの指が触れたとき
そこにことばが生まれた
ことばは光を放ちメロディーを呼び戻した
ぼくが指先を通してきみとコミュニケートするとき
そこに新たな宇宙が生まれ
ぼくは再び世界を発見した
コミュニケーションはぼくの命
ぼくの命はいつもことばとともにある
指先の宇宙で紡(つむ)ぎだされたことばとともに
福島さんの「言葉は魂と結びつく働きをする」、
そして、北方謙三さんが福島さんに言った「先生の言葉は鼓動です」は特に心に響きました。
我々でも普段難しいと感じる人との言葉のやりとり。
そして生きる意味をここまで真剣に考え、実践している人は稀有だと思います。
すべての人の命は言葉とともにある。
言葉のないところに人間の命はない。
どのような人生の難関も言葉という通行証を手にすることで、乗り越えることができる、
そのことをこの詩を通じて教えていただきました。
福島さん、素晴らしい出会いを有難うございました。